中日新聞記事

6月25日の中日新聞(滋賀総合版)に連載記事が載ったようですので、下記に、改変前の原稿をアップします。

(ここより)

中日新聞【湖岸より】

遺跡と「災害」

宮本 真二

考古学の遺跡発掘調査の報道では、土器などの「最古の発見」といった情報が大半です。しかし、私は遺跡の発掘現場で地形や地質を調べ、「なぜ、この土地にヒトが住んできたのか?」という疑問で遺跡と接しています。

調査中、「なぜ、こんな場所に遺跡があるんだ?」という場面にも何度も遭遇します。例えば地下水位が高く、水があふれ出てくるような場所です。当然、当時と今では、社会情勢も違いますので、簡単ではありませんが、「ここに住む理由」があったはずです。

今回の大地震の報道の中で、過去の津波災害が以前から分かっていたとの報道をお聞きになったこともあると思います。実は、滋賀県内の遺跡でも、このような「過去の災害」痕跡が見つかっています。遺跡発掘調査では、今回の被害でも問題となっています「液状化」の痕跡が見つかることが数多くあります。つまり、この発掘現場の過去には、地震によって土地が大きく揺れた事実を遺跡が物語っているのです。液状化以外にも、「洪水」の痕跡として砂がたまった地層や、大規模な洪水によって、集落自体が廃絶したと想定される遺跡もたくさん見てきました。

阪神・淡路大震災後、ある研究者は、一般に「関西は地震がこない安全な場所だ」ということを「信じられて」いたことに、強い衝撃を受けたと言っておられます。つまり、研究では、過去の活断層や液状化の実態が明らかとなっていたのに、「いつ大地震が発生してもおかしくなかった」という事実が、なおざりにされていたことへの衝撃です。

遺跡の報道では、冒頭のような情報が注目されますが、実は、遺跡が語りかける「都合の悪い情報」にこそ、過去からのヒントが秘められているのです。

今回の震災は、研究者は事実を正確に分かりやすく説明する義務を負い、また研究成果を活用する方々は、過去の事実に謙虚に、「都合のよい情報」には、懐疑的に接する必要性を物語っています。

私自身、このことを肝に銘じています。

(主任学芸員)