海外からの視点(中日新聞:滋賀版11月26日)

中日新聞:滋賀版11月26日に掲載された元原稿をアップします。

 

海外からの視点

宮本 真二

 

毎年のように海外でフィールドワークを行っています。学生時代には、長期間ヒマラヤ山脈の山中の村に滞在させてもらったり、アフリカの砂漠に出かけたりしながらフィールドワークを繰り返してきました。それらの国々は、日本人が一般的に旅行する場所ではなく、学生時代にお世話になっていた下宿の大家さんは、「宮本さん。なぜ、そんな大変な場所ばかりに出かけるの?」と心配されていましたが、未だに継続していますので、その意味をご説明したいと思います。

まず一つ目は、自己の常識から開放される魅力です。海外調査は一過性の観光旅行ではないので、外国人である私たちだけで実施できるのもではなく、多くの現地の研究者の方などにお世話になっています。しかし、日々の交渉の中では、日本人で共有されている常識は通用しません。何をすることにおいても、日本人にとって当たり前であることも、すべて説明しないといけません。このことは、日本人の多くの方々にとっては、しんどいことなのかもしれませんが、今の私にとっては、私の常識が覆されて、溶解されるようで、心地よい刺激を毎回味わっています。

二つめの理由は、日本へのまなざしが変わることです。例えば、近江の場合、琵琶湖は当たり前の風景で、「そこにあって当たり前」になっていて、その価値を考える機会に乏しいでしょう。しかし、琵琶湖を中心とした自然、そして人間がはぐくんできた文化の再発見は、この連続コラムで県外の出身の研究者が指摘しているように、外から指摘されることのほうが多いのではないでしょうか?

今夏は、インドとブータンでの4000メートルを超える場所でフィールドワークを行いました。こんなヒマラヤの高所で身を置きながら考えたのは、高所では想像しにくい琵琶湖を中心とした水辺のある低地の生活についてでした。

海外の調査は、価値の再発見をうながしてくれます。さらに大げさに言えば、私の判断基準の揺らぎさえもたらし、感受性を豊かにしてくれる自己鍛錬の場にもなっており、研究の原動力になっています。

(主任学芸員)